コモディティvs ブランド
たまにヨーロッパの二輪車を販売するディーラーの人と話をする機会があり、四輪/二輪の話を聞くことがある。日本の製造業で今でもグローバルマーケットで頑張っているのが自動車/オートバイの分野と思うけど、ブランディングという目線だと弱いのかと。
日本の四輪/二輪製造メーカーの得意分野はミッドレンジからローレンジで、コモディティとしての自動車は日本メーカーの最も強いところ。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル等々が好例。
同時にレクサスやインフィニティという高級ブランドがブランドマーケティングのアプローチで展開しているけど、ユーザーがそれらに求めているのは実はコモディティ的な信頼性であって、メルセデスやBMWに求めるブランド価値とは違う部分であることも事実。
二輪車になると、ヤマハ、ホンダ、川崎、スズキが世界のマーケットを席巻している事は間違い無いのだが、実は(ユーザーのライフスタイルまで巻き込んだ)ブランドとしてはハーレー、BMW、ドゥカティといった欧米のメーカーに敵わない。
プロダクトとしてはミッドレンジからハイレンジの工業製品としての能力はありながらも、ブランドとしての確立に弱い。そしてさらにその上のハイエンド(ブランド)については、欧米企業の得意とするところ。
だいぶ前に「仮にクラウンをBMWと同じ精度で組み立てたら、値段あまり変わらなくなる」って知り合いの開発者も言ってたし、ポルシェなんかだと普段の整備をする工場でも温度管理をしていて、エンジンの組み立てなんかも金属の膨張を加味して一定の温度で行うとか。
二輪も四輪も日本の工業技術って大量生産に寄っていて、それもかなりのボリュームをそこそこの性能と絶対的な信頼性で生産しているように見える。この3つを同時に実現するのは凄い事で、この信頼性をこのボリュームで作るというのは日本メーカーの強み。もちろん、ここ一番というところでは最高の品質(性能)を出してくるのも事実。
その一事象として、二輪の世界選手権であるMoto GPなんかもかなりの確率で上位を占めている。それなのに、ドカティやハーレー、BMWといったブランドやカルチャーを作ることはできていない。
最近のドゥカティのビデオ。従来はレースを中心としたニッチなイメージで、本当にバイクが好きでないと手を出せないモノだったけど、今度の製品ラインはよりカジュアルなカルチャー路線のクリエイティブを提供している。ライフスタイルの中に溶け込んだドゥカティライフを演出してる。5月にはドゥカティ スクランブラー 原宿をオープンして、アパレルの切り口からのマーケティング展開をしてる。
そして米国を代表するブランドであるハーレー・ダビッドソンは、ライフスタイルとしてのブランドを確立しており、世界中で安定した人気を保っている。
日本国内でも毎年4000台近くは新車登録されており、販売価格を考えると、よくもこれだけの台数が捌けるもんだ。
車両そのものだけでなく、アパレルやライフスタイルまで非常に影響力の大きいブランドなんだけど、正直なところ機械としては前時代的な構成で、精度もそこそこ。それでも実際に乗った時の感覚は、他のメーカーには無い特別なもの。走ってるだけで楽しいという感覚はハーレー独特。ドゥカティは正直、真面目に走る(操作する)ことが前提なので、ただ街中を走るなんてのは辛い。
ハーレーダビッドソンが他のメーカーに勝っているのは、その圧倒的なユーザーインターフェース(UI)とユーザーエクスペリエンス(UX)なのかな。
BMWも同様で、ハーレーよりは走りに振ったユーザーが多いけど、独特の世界観を提供していることは間違いない。
ブランド作りが上手いヨーロッパは、カルチャー的にもアマチュアスポーツとして四輪/二輪遊びが確立されていてクラブチームも多い。そういったクラブがパトロンとなってモータースポーツの底辺を支えている。
Hondaが勝てない理由はマシンの性能差ではなくて、ヨーロッパに根付くパトロン文化の差が大きい。
特にヨーロッパだとクラブチームが数多くあって、そのパトロンが活動を支えている。同じ意味で、4輪の最高峰であるFormula1もヨーロッパ勢が強いのはこの辺かもしれない。
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NHTの正体、そしてレポート地獄
NHT (Non Human Traffic) ,それはレポート地獄との戦いの始まり
IMJの江端さんがアドタイで書いていたNHT(Non Human Traffic)が話題になっていたので、忘れないうちにメモ。
スマホ、動画へシフトする、広告を巣食うNHT問題とは
詳しくは江端さんが書いていますが、こちらは実際にメディアを運営していて見てきた事例をいくつか。そもそも、なぜNHTがこんなに多かったのか?
NHTがメディアに与えるインパクトは大きくて、特に広告のクリックログとかは大打撃を受けます。仮にレポート制作者が異常なレポートを見つけるとそこからは私の仕事。同時期に複数の広告キャンペーンが走る中で一本のキャンペーンのログレポートを精査するだけでも;
- 100万インプレッションで想定1%=本来なら1万クリック程度
- 実際のレポートでみると、10万クリックくらいになっててCTRが10%。
- これを精査するためには、生ログ10万行を名寄せして怪しいIPからのクリックを削除する手作業。ロボット多過ぎ。
いまどきWebサーバーや広告サーバーの生ログを見る人もいないとは思うが、当時でレポート一本の精査に2~3時間は普通。そんなものが10本もあると生産性は確実に落ちます。
そもそものNHTの目的とは?
1)クリック課金の予算を獲得するため
江端さんも書いているように、元々はクリック課金型の広告サービスが出てきた頃に、意図的にディスプレイ―広告をクリックして広告の予算を消化させて利益を得るモデル。(怪しい)媒体社が自ら顧客のバナーをクリックしまくる。ただしこれだと、あまりにあからさま(クリックログを見れば社内のIPアドレスであることが丸見え)なので、中国とかのアウトソース先でクリックをさせたケースもあります。
2) 企業がメディアの全ページをクロールして全てのリンクをクリック
これがかなり悪質で、メディア企業を悩ませた。文面通り記事のリンクだろうが広告のリンク(=クリック)だろうが、すべてをたたいていく。その結果として(特に)広告のクリックレポートが被害大。
(ちなみにDoubleClickのアドサーバーは頭良くて怪しいクリックをリンク先に送っていないらしくて、異常クリック分のトラフィックは広告主に発生していない)
目的としては;
- 表向き:企業に対するネガティブ情報が流れていないかを監視するWebパトロールサービスとして月15万円程度で販売。企業の広報やマーケターにとっては便利なツール。
- 実態:メディアの記事を勝手にスクラップして再編集してユーザー企業に有料提供。正直なところ、昨今のダメキュレーションサイトより遥かに性質が悪いです。
経験から言うと、とある韓国のIPから5~10分置きにクローラーが来て、クリック出来るものはすべてクリックします。サイバーパトロールという意味では、頻繁にクロールして情報を集める必要があると思うのですが、実は彼らもブロックされる可能性を考えて、100個以上の異なるIP(すべて所有者は同じ)からクロールしてきます。某一部上場企業なんかも、自社関連のニュースだけをキュレーションしてもらい、社内のIPからはそれしか見れなくしていた。
以下は悪意はないけど、結構コンテンツのログも広告のログもおかしくなるので結構困る。
3)個人からのアクセス
常時接続が普及したころ、巡回ソフトを利用した個人からのトラフィックも増加。一定の時間内に同じIPから何回もアクセスしてくるし、ユーザーエージェントからそれがブラウザじゃなくて、ソフトウェアであることは分かる。これは悪意もなく、ただ情報を集めるために個人ユーザーがサイトをクロールしまくるもの。懸賞サイトとかニュースを収集するためらしい。
4) 企業や大学の研究所からのアクセス
結構多くて、一企業や大学の研究所からのトラフィックが多い。同じIPから1時間に数回、全ページをクロールしていく。
この辺は相手先が特定しやすいので同僚が確認したところ;
- 会社として自由にインターネットの利用が許されていない
- しかし、自社や競合製品の情報は収集しなくてはいけない
- 自らクローラーを開発して記事を収集し、関連情報だけを表示するWebサイトを構築して社内向けに公開(??)
結局、これも無断転載なので止めてもらうようにします。実は当時、企業内のインターネット利用規制を考慮したサービス(関連記事クリッピング的な)も販売していたので、そちらを利用してもらえないかと交渉。
以上、実際にメディアであったクリックレポート地獄の話。
物欲を刺激するコンテンツ
Moment - Amazing Lenses For Mobile Photography - Kickstarter 2014
最近はアクションカメラとか、ちょっと触手の動くプロダクトも多いけど、機能やスペックで考えるとなかなか判断が難しい。
モノが無い(あるいは少ない)時代は機能やスペックが競合との差別化になったけど、今ほどモノが溢れてくると差別化にはExperienceの提案が必須なんだとあらためて思う。
アクションカメラの事例で見ても、GoProの提供するワクワク感ってスペックや機能を超えたモノがあって、自分で使っているシーンを思い浮かべやすい。SonyやPanasonicも、この辺りを参考にしてWebコンテンツを作ってはいるけど、何かワクワク感が足りない。おそらくスペックとかで見ると日本製品の方が上だけど、それだけでは足りないという例。
Pinterestでも感じたのだけど、ユーザーのWants(未来の行動)やExperience(実際の使い方提案)をマーケティングに盛り込んで成功している事例は多い。MOMENTISTにはユーザーエクスペリエンスをベースにしたコンテンツ。特に写真が趣味でない自分もワクワクしてしまうのは、Pinterestを見ている時と同じ感覚。
ワイド/テレともに$99.99で、新しく出てくるiPhoneケースと合わせて、普段使いのカメラとして購入してしまうか?
アドテクが衰退したわけではなく原点回帰するだけ
TechCrunchで盛り上がっていた話。
別にアドテクノロジーが廃れるわけではなくて、これからも面白いものは出てくる。マーケティングテクノロジーの時代が到来するなんていう言葉に踊らされると、数年後にはマーケティングテクノロジーが死んだなんて話をする事になる。そろそろ言葉の遊びは止めないと、いつになってもマーケティングそのものが進化しないんじゃないかと懸念。
正しくは、やっと本質に回帰してテクノロジーを活かしたマーケティングをする時代がくるということだと思う。
この記事の冒頭は投資家目線の話が大きく、至極当然の話だが、ここ数年のアドテクノロジーの盛り上がりによって投資対象が従来型のエンタープライズ系のテクノロジーから、マーケティングツールとしてのアドテクノロジーになっていた。そして元々情報強者であった投資家達が情報弱者になっていて、Rocket FuelやMillenial Mediaのような株価下落による損失に巻き込まれているだけ。
アドテクノロジーと言っても根底にあるのはマーケティングそのものであって、それはグローバルのカンファレンスでは度々言われていること。
グーテンベルグの印刷革命の時代から電波メディアが出てきた時に、従来とは比較にならないマスへのマーケティングが可能になった。そして現代にはインターネットを介して、今までとは比較にならないマスに対して、よりセグメントされた情報を届けることが出来るようになっただけであり、マーケティングの本質は変わらない。
”メディアの近未来”でも書いた情報の流通が従来型のメディア(電波・プリント、メディアサイトを含めて)からソーシャルに移った様に伝えるべき情報は本質的に変わらない。同様にマーケターがするべき事も、本質的には変わらないものだ。
メディアの近未来
いよいよ劇的にメディアが変わってくるフェーズなのか。
従来型のメディアは、いずれCMS+QC(デスク機能による品質管理)+マイクロペイメント(執筆者への支払い)に集約されていくと考えているので、この動きは理にかなってくる。
コンテンツの流通(販売)はメディア企業から切り離される。広告もすでにSSP(Supply Side Platform)やアドエクスチェンジを介して半分切り離されている。いずれはコンテンツの編集も切り離されるだろう。
もう10年も前になるけれど、当時やっていたメディア系サイトで企業から送られてくる新製品のリリースをCMS( Content Management System)に自動取り込み出来る仕組みを企画した。毎日数百通の封書(!)が届き、その中から編集アシストがピックアップしたものを若手がリライト。そしてデスクの目を通ったものが制作経由で雑誌やwebに掲載される。
この冗長な流れを:
- 会員登録されたメーカーの広報が、メディアのwebフォームに直接データで記入してDB化
- 編集部で締切に合わせて掲載日のタグを打つ
- 各編集部の制作担当がトンマナを合わせてリライト、CMSに投入
という流れで、メディア側の作業の簡素化を出来るのではないかと考えた。同じ仕組みは、雑誌記事とWeb記事のワンソースマルチユースにも有効なんだけど、コンテンツボリュームの制約が多いプリントメディア向けではないかもしれない。
実際は、大人の事情でこの仕組みは採用はされなかったけど、選別・入力・校正・承認・掲載という流れを簡素化することができる。
執筆・制作・販売(流通)を含めた次世代のエコシステムへ
この流れは、いままでメディア企業が謳歌してきた成功体験を否定するモデルになるもので、従来の編集・広告・販売による三極体制を破壊する。その中でも特に販売部門に対するインパクトは大きくて、反発は容易に想像可能。
従来は顧客対策のマーケティングよりも、純粋な販売部門として販売店対策・流通対策をやってきたメディアの販売部門。
従来の出版社の販売というのは、トーハンや日販といった流通に雑誌・書籍を納品した時点で売り上げを立てる。そして売れ残った在庫は一定の期間をおいて返本され差額を決済する。この制度を利用して、版元も一時的な売上をたてている事もあり、返本に合わせて新刊をを発行し、さらに売上を立てるといった自転車操業の繰り返し。販売価格についても再販価格維持制度によって全国どこでも同じ価格で販売される。
これが、実際にユーザーが購入するもののみが流通するようになり、返本は発生しない。実売上で勝負しなくていけない。
コンテンツは有料であるべきという観点から従来の販売機能は必要だが、おそらくこれは旧来の流通会社+販売部門という関係ではなくなって、購読料金を決済する簡易的なモデルが中心になるか。そうなると販売部門は、よりマーケティグ部門としての顧客にリーチしていく施策が中心。
ただし技術誌などのB2B系コンテンツはロングテールでの利用があり、発行してから10年20年と参照される記事の単発販売などは、版元の販売部門の機能となる筈。その部分はメディアプラットフォームであるFacebookなどではなくメディア本体がアーカイブを扱うというのが、妥当だろう。