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日露首脳会談に期待すること:日本のエネルギー安全保障

日露首脳会談の最優先事項は領土か?エネルギーか?

現代ビジネス:

gendai.ismedia.jp

対ロシアの交渉で必ず最初に来るのが領土問題であることは間違いないと思うので日露首脳会談には期待をしたい。 基本的な人権保護のために、旧島民が北方四島へ戻れることは国家として重要な課題。それと同時に、現実の問題として非常に重要なのは日本のエネルギー安全保障。今国会で問題とされた安保法案問題にしても背景にはシーレーン防衛があると思うのが論理的で、これを無視できる程いまの日本は地政学的に安全なポジションにはいないと考えたほうが無難。

 

南シナ海における中国のリスクとロシアからの天然ガス供給

現に南シナ海における中国の埋め立ては 実質的な実効支配を中国にもたらす可能性もあり、そうなれば中東から運ばれてくる原油LNG(液化天然ガス)の航路の安全性は中国次第ということ。いわゆるシーレーン防衛の話。

このリスクをヘッジするためには勿論中国との対話も重要だが、それに加えてエネルギー供給源の多様化が最重要課題。そこでサハリンからの天然ガスのパイプラインの再開に向けての議論に期待をしたい。現在サハリンからLNGの形で輸送されている天然ガスをパイプラインで直接日本に引き込むということ。現在はLNGという高付加価値の商品を購入している訳で、これは非常に大規模な設備と投資を必要とする液化というプロセスが必須であり、さらにはLNGの形になった瞬間に、そのエネルギーがどこへ売られるか?本当に日本に入ってくるのか?というリスクも生まれる(実際には液化施設の開発から買い手の資本が入るので単純ではないが)。

元々、世界の天然ガス流通量の9割近くはパイプラインで輸送されているので、サハリンー関東圏までは約1300キロでありパイプライン設置は極めて現実的な話。

この取り組みが進めば、少なくとも南シナ海におけるシーレーン防衛問題は多少なりとも軽減される。

現在、原油価格が下落傾向にあり、パイプラインによる購入価格的メリットは少ないが、LNGスポット価格高騰時の$16/100万BTUであれば、北米から輸送されるLNGよりもサハリンからのパイプラインの方が25%安くなるという試算もある。原油の低価格も将来的に担保されている訳ではないので、エネルギー供給源の多様化という観点からもロシアとの協議をすすめるタイミングである。

ロシアはリスクヘッジ先として安全なのか?

ここで、リスクヘッジ先としてのロシアが信頼できるかとの懸念も出てくる。パイプラインによる天然ガスの輸入についても、パイプラインを止められたウクライナの事例を取り上げて”脅威”と捉える考え方もあるが、それは杞憂である確立も高い。

なぜなら 国家のGDPの25%をエネルギー輸出に頼るロシアは、顧客である国家に対して侵略的な行動には出られないから。ウクライナについては、元々の衛星国であった事、ガス料金の未払いが続いていた事、による特別対応である側面が大きい。

現在のロシアは、”脅威”ではなくて”可能性”と見る方が正しい。

経産省の藤和彦氏の著書「シェール革命の正体」では、パイプラインの生み出すエコシステムをこのように説明している。

ロシアのパイプライン政策
ロシアという国は、個々の地域が政治・経済の中心地から遠く離れて いる地理的特殊条件にあり、インフラの整備・発展こそがひとつの 統一国家に住むことの利点を保障する そしてパイプライン等の輸送システムを高度に発展させることにより、 ロシアの地理的特殊性を逆に競争力のある長所に転換できる。 

パイプライン

・初期投資は大きいが、操業の安定性、効率性、経済性で有利

・規模の経済性で、鉄道や電気と供に自然独占体を形成 

・ひとたび完成すると「正のフィードバック機能」を有する 

  →追加インフラの建設などによる経済波及 

パイプラインの相互確証抑制効果 

・パイプラインでつながれた国同士での破壊的な闘争が自制的に回避される 

・長距離パイプラインでつながれたBuyer-Sellerは、容易に取引先を変更できない運命共同体となる 

⇒反対にLNGには支配という要素も、協調という要素もない

 

相手が中国であれ誰であれ、要は現時点においての脅威であるか、可能性であるかを見極めることが重要。

将来的には中国とのパートナー関係は必然

南シナ海における中国の活動は明らかに”脅威”である。

ただし、これは現時点においての話。

いまはまだ海外からエネルギー資源を輸入する中国も、将来的にはエネルギーの輸出国になる。いまはまだまだ領土拡大の路線だが、その時には現在のような侵略的行動は控えて来ると想像(希望的観測)できる。ベトナム、フィリピン 他との緊張関係にあるベトナム・フィリピン他とも、がいずれこれらの国々が中国の顧客になった際には態度を変えてくる。

そして現時点で利益が相反するようにみえる日中関係も、シーレーン防衛という観点から見れば、ホルムズ海峡におけるエネルギー安全保障では協調できるはず。 

元々シーレーン防衛では大きな役割を務めた米国が国内資源およびFTA圏内のカナダ、メキシコ、そして南米まで含めると、中東へのエネルギー依存度が下がっており、いずれは米国のシーレーン防衛への貢献は減っていくと思われる。 そうなった時に、湾岸地域から多くの資源を輸入する中国と日本はお互いにシーレーン防衛に協力していく立場にならざるを得ない。

個人的に現政権に対してあまり期待はしていないが、この局面は日本のエネルギー安全保障にとっての大きなチャンス。 2017年のGastech Japanには、日本のエネルギー安全保障の未来が掛かっている。